血風、咲き誇れ/イサファウ 壇香梅と剣契 続きを読む 風に揺れる濡羽色の髪。 陽光に映る白皙。 伏せた目元に深々と刻まれたくま。 知っている男と瓜二つの――当然だ、彼もまた「イサン」なのだから――けれど、知らない男の持つ扇が空を切ると共に、一等鮮烈な黄色が視界を覆い尽くす。まるで演舞でも披露するかの如く、花色と同じそれが振るわれるたび、一層の鮮やかさを増して花々は咲き乱れ、血の臭いすら掩蔽されてしまうほどに、ぴりっとした蘞辛い香りで鼻孔は満たされていった。 噴き上がる赤が黄色にかかっては、花弁のひとひら、またひとひらを染め上げていく。 息を吸うように刀を振り上げ、吐くようにして斬り伏せる。それが「剣契」と呼ばれる集団だ――しかし、いつしか刀を持つ右手を下ろしたまま、やがて晴れた視界に名残惜しささえ覚えながら、自分はその光景にただただ魅入っていた。 ――あんな風に、美しい花を咲かせることが出来たならば。 物言わぬ死屍累々。夥しい血河。 訪れた静謐の中、先ほどと同じ場所に佇む男に何かしらの変わった様子もなく――その身を一切の血を浴びることなく、涼しげな面持ちを崩すことなく、扇で自身の顔をあおいでいる。 「そなた……魂抜けきめりかし?」 不意に、心の臓が高鳴る。 扇で口元を隠したまま、こちらへと向けられた眼差しがあった。まるで自ら爛々と煌めくような金色の眼を、自分は知らない。 畳む #LCB0102 #技術解放連合 #剣契 2024.7.10(Wed) 23:40:37 LimbusCompany,文 edit
壇香梅と剣契
風に揺れる濡羽色の髪。
陽光に映る白皙。
伏せた目元に深々と刻まれたくま。
知っている男と瓜二つの――当然だ、彼もまた「イサン」なのだから――けれど、知らない男の持つ扇が空を切ると共に、一等鮮烈な黄色が視界を覆い尽くす。まるで演舞でも披露するかの如く、花色と同じそれが振るわれるたび、一層の鮮やかさを増して花々は咲き乱れ、血の臭いすら掩蔽されてしまうほどに、ぴりっとした蘞辛い香りで鼻孔は満たされていった。
噴き上がる赤が黄色にかかっては、花弁のひとひら、またひとひらを染め上げていく。
息を吸うように刀を振り上げ、吐くようにして斬り伏せる。それが「剣契」と呼ばれる集団だ――しかし、いつしか刀を持つ右手を下ろしたまま、やがて晴れた視界に名残惜しささえ覚えながら、自分はその光景にただただ魅入っていた。
――あんな風に、美しい花を咲かせることが出来たならば。
物言わぬ死屍累々。夥しい血河。
訪れた静謐の中、先ほどと同じ場所に佇む男に何かしらの変わった様子もなく――その身を一切の血を浴びることなく、涼しげな面持ちを崩すことなく、扇で自身の顔をあおいでいる。
「そなた……魂抜けきめりかし?」
不意に、心の臓が高鳴る。
扇で口元を隠したまま、こちらへと向けられた眼差しがあった。まるで自ら爛々と煌めくような金色の眼を、自分は知らない。
畳む
#LCB0102 #技術解放連合 #剣契